8. 対人関係
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1. 対人魅力
1-1. 近接性と熟知性
事物にしろ人にしろ、新規な対象に繰り返し接触すると、その対象への好意は徐々に増していく
物理的に近くにいる人は、顔を合わせる機会がお炒め、最初によほど否定的な印象を持たない限り、単純接触効果によって、好意を持つ可能性が高くなる
興味深いことに、同じ階の隣室の住人はもちろんのこと、階が違っても、階段のそばの部屋などで顔を合わせる機会が多い者同士は友人になりやすい傾向があった
1-2. 類似性 / 相補性
自分とよく似た特徴を持つ他者には魅力を感じやすい
出身地、経歴、社会的地位、性格、価値観、態度などが似た他者は、そうでない他者よりも好かれやすい傾向がある
なかでも、特定の事物、人物に対する態度(→5. 態度と説得)は、類似しているほど、好意が持たれやすい 一方で、類似した態度を持つ者との相互作用は、そうでない者との相互作用よりも、認知的な負担が軽減されることも魅力を感じる要因となっているとされる
もちろん、自分にない部分を補ってくれそうな人に魅力を感じることもある
しかし、性格については、相補的な性格が好まれることがあるものの、態度については類似した態度を持つ他者の方が好まれやすいようである また後述のように、関係の比較的早い段階においては、相補的な他者よりも類似した他者の方が好まれやすい
1-3. 外見的魅力
見た目が良い人は、魅力を感じられやすい傾向がある
ただし、それは単に表面的な評価からだけなく、外見への評価が、内面の評価にも波及するため
ハロー効果により、思いやりがある、ユーモアがある、知性がある、仕事ができるど性格や能力が高く評価されるため、魅力を感じられやすい 1-4. 返報性(互恵性)
好意や魅力はしばしば双方向的
一方が相手を魅力的だと感じ、好意を示せば、その相手も好意を示してくれることが多い
人は誰しも、他者から受け入れられることを望んでいる
他者から好意を示されることは、その人から受け入れられることであり、また肯定的な評価を受けることでもある
したがって自尊感情が低いとき、すなわち自信を失っているときに寄せられる好意は、特に恩恵と捉えられやすく、好意の返報性が強く働く
ただし、好意の返報性は負の方向にも働きうる
他者から示された嫌悪は、同じく嫌悪として相手に返される
返報性は自己開示においても見られ、自己開示の返報性が次節で述べるような対人関係の進展にも寄与している 2. 対人関係の過程
2-1. 対人関係の進展
初期
外見、性格、行動、社会的評価の望ましさなど
先に示した要因と対応づけると、近接性・熟知性や、外見的魅力が関係する段階 中期
相手と考え方や趣味が似ているか
後期
相手ができないこと、苦手なことを補う相補性
2-2. 関係性の維持と崩壊
人間は基本的に利己的であるとの前提のもと、対人的相互作用財の交換としてとらえる
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具体性: その財が具体的な形を持つ程度
個別性: 誰から受け取ったかによって財の価値が変わる程度
一般的な経済活動では、具体性が高く、個別性が低い財が交換されるのが普通だが、対人間で交換される財は具体性が低く、個別性が高いことが特徴
この社会的交換理論を土台として、関係の維持・崩壊について、次のようなモデルが提案されている
他者と交換する財の価値が等価であるとき、すなわち自分が投入したコストと報酬の比率が同じであるときに公平だと感じ、それを受け入れる(Adams, 1965) そのため自他の報酬とコストに釣り合いがとれているときに、関係性が継続するとするのが衡平モデル
実際、対人関係では自分のほうが得をしていれば罪悪感を覚え、反対に自分が損していると思えば、不満や怒りを感じる
関係が不衡平な場合、衡平状態を回復するための努力が投じられることもあるが、それが難しい場合には関係自体が解消される
投資モデルでは報酬が大きいと関係を継続しようとする意思(コミットメント)が高まるものの、以下の3つの要因が関係すると考える(Rusbult, 1980) 関係満足
投資量: これまでその関係にどれだけの時間や労力を投資してきたか
選択比較水準: 他に魅力的な代替関係が存在しないか
このモデルでは仮に満足度が低かったとしても、それまでに相手に注ぎ込んだ投資が大きい場合や、代替関係から得られるであろう利得が小さい場合には、現在の関係を維持しようとすることが予測される
返報性の規範の存在ゆえに、互恵モデルでは相手から何らかの報酬を得ると、それにより関係満足度が上昇する一方で、相手にコストを払うという義務感が高まると仮定する
ここまでは社会的交換理論をもとにして関係性の維持について考えてきたが、家族、恋人、親友といった親密な対人関係では、相手から見返りを期待しない共同的関係が成立する(Clark & Mills, 1979) 共同的関係においては、信頼や相互扶助、相手の必要に応じた報酬の提供や、自己犠牲的なコストの投入が起きることが知られている
関係性の測定にしばしば用いられる
この尺度では、親しい関係であるほど、自己と他者との重なりが大きい図が選択される
これは自己の心的表彰のなかに、他者の様相が包含されていることを示しており、このような状況では、自他の混同が生じている(→6. 自己概念と自尊感情の重要他者を参照) すなわち、相手に尽くすことは、自分に尽くすことと同等の価値を持つために、見返りを期待しない関係性が成立するのだと考えられる
なお、IOS尺度は個人間の関係性の認知だけでなく、所属集団(内集団)との一体感を測定する場合に用いられることもある(→11. 社会的葛藤) 2-3. 関係葛藤への対処
どのような関係性であっても、行き違いや意見の対立によって、葛藤が生じることがある 葛藤が生じたときに、どのように対処するかということも、関係性の維持に置いては重要な観点
table: 関係葛藤への対処行動
積極的 消極的
建設的 話し合い 忠誠
破壊的 別れ 無視
建設的な対処行動は、話し合い(e.g. 問題について話し合う)であれ、忠誠(e.g. 状況が改善するのを願う)であれ、関係性の継続につながる
破壊的な対処行動の場合、別れ(e.g. 関係を解消する)だけでなく、無視(e.g. 相手を無視する)も関係性に否定的な影響を与える
全体として積極的な対処行動は、消極的な対処行動よりも影響力が大きいことが明らかにされている
2-4. 社会的スキル(ソーシャル・スキル)
他者とよい関係を築き、維持していく能力で、個人差もある
どのようなスキルであるかをめぐっては多くの議論がある
「対人場面において、個人が相手の反応を解読し、それに応じて対人目標と対人反応を決定し、感情を統制したうえで対人反応を実行するまでの循環的な過程」と定義
社会的スキルを構成する3つの要素
人の話を聴くスキル
自分を主張するスキル
対人葛藤に対処するスキル
社会的スキルの不足は孤独感や抑うつと関係があることが指摘されているが、重要なのは、社会的スキルは練習次第で向上させられるということ 不適応のある人を対象に適切で効果的な社会的スキルを体系的に教えようとする行為
3. 対人関係の効用
3-1. 社会的孤立と心身の健康
社会的スキルの不足が孤独感や抑うつと関係していることからもわかるように、対人関係の不全は心身の健康と深く関係している
これは人間が社会的動物であり、生存や繁殖のためには集団に所属する必要があったからかもしれない 実際、社会的孤立は私達の心身の健康を蝕む可能性が指摘されている 以下のを規準で調査対象を4群に分ける
結婚をしているか
親しい友人や親戚と接触はあるか
教会に所属しているか
公的、非公的なグループとのつながりはあるか
その結果、年齢、性別にかかわらず、社会的に孤立している者ほど脂肪りうが高いことが明らかになった
彼女らの推定によれば、社会的なつながりが最も少ない第1群は最も多い第4群に比べ、男性で2.3倍、女性で2.8倍も死亡リスクが高かった
ただし孤独感には個人差があり、客観的には孤立しているようであっても、孤独を感じていない人もいるし、表面的には他者とのつながりが多く、社会的孤立の程度が低いように見える人でも孤独感が強い場合もある
3-2. ソーシャル・サポート(社会的サポート)
援助行動の研究においては、見知らぬ他者への関わりが研究対象となっていることが多い
実験室のような人工的な環境での実験が多い
研究手法としても既存の対人関係と心身の健康との関係を調べた調査研究が多い
ソーシャル・サポートはその機能的な側面から以下の2つに大別
問題解決を直接的に促すために必要な資源(金銭や労力)を提供すること
共感や励まし、慰めなど、否定的感情の制御を促すもの
ときには友人がただ傍らにいることによって、不安が軽減され、情緒の安定がはかられることもあるだろう
ストレス緩和効果
良好な対人関係によって、ストレス源(ストレッサー)の影響が緩和される その外部資源となるのが、ソーシャル・サポート
良好な対人関係を持つ人ほど、道具的サポートや情緒的サポートを得られるため、ストレス反応が和らいだり、問題を解決したりすることができる
またストレスを受ける以前の段階、ストレス源となりそうな事象をいかに評価するかという段階でも、良好な対人関係を持つ人は、ストレッサーを過剰に深刻にはとらえず、適切に評価することができる
直接効果
ストレッサーの有無やその程度にかかわらず、ソーシャル・サポートは私達の心身にポジティブな影響をもたらす
所属欲求こそが人間にとって根源的な欲求なのだとすれば、良好な対人関係はそれだけで心身の健康を促進することが期待できる
3-3. 社会的ネットワーク
私達は誰しもが複数の対人関係を持ち、そうした関係性は社会全体で網の目のような構造を成している
社会のつながりや人間関係の豊かさを示すもの
物的資本(経済的な豊かさ)や、人的資本(教育によってもたらされる知識)と並ぶ、重要な資本 これら3つの要素がうまく噛み合うことで、社会システムが円滑に運営されるとしている
ただしここで注意したいのは、社会関係資本の醸成には負の側面も存在するということ
特定の集団の内部における人と人との結びつきに基づくもの
私達が集団の結束として捉える類のもの
同質的で内部志向的な性質を持つため、集団内部では助け合いの精神が育まれ、連帯意識が強化される
したがって、集団の内部では社会関係資本の恩恵を受けやすい
しかし、外部に対して閉鎖的、排他的になりやすく、集団感の葛藤が頻発する(→11. 社会的葛藤) また集団の内部の者に対しても、集団としての種々の規範を守ることへの圧力が強く、相互監視によって個人の自由が制限される危険性もはらんでいる
異なる集団間の人を結びつける外部志向的な性質を持つもの
集団内部での結束はさほど強くないが、異なる集団に対しては開放的
したがって、この種の社会関係資本が豊かな社会では、他者一般に対する信頼が高く、自分が誰かを助ければ、(助けた相手以外の)誰かから助けてもらえるといった一般化された互酬性規範(返報性、互恵性の規範)が形成されていく(→11. 社会的葛藤) したがって、社会全体に恩恵をもたらすのは橋渡し型の社会関係資本だといえる
結びつきの弱い人的つながりが、むしろ強い力を発揮する
グラノヴェッターの調査によると、転職の際に有益だった情報源として、調査対象の半数以上の人が人的なつながりを挙げたが、その人物との接触頻度は必ずしも高くはなかった 時々会う(年2回以上、週1回以下)が約55.6%、まれに会う(年に1回以下)が約27.8%
頻繁に会う他者は、内集団に属している可能性が高く、共有する情報も多い それに対し、頻繁に会うことない他者は異なる集団に属しているため、新規な情報を有しているからだと考えられる
このように弱い紐帯を持つ他者はときに強力なソーシャル・サポートの源(特に道具的サポート)となると考えられる